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文書タグ: 経済TPP

2015年3月27日

オバマ大統領や有力な共和党議員までもが、不平等がことによると行き過ぎで、手を打たねばならないと認めたことは興味深い。大統領は、富裕層には控えめな増税を、教育やインフラにはささやかな公共投資を、軍人や連邦職員にはわずかな昇給を、貿易関連解雇支援にはほんの少額を提案してこれに対応した。共和党は、オバマの重苦しい規制からの解放と彼らが長年信奉してきた経済のトリクルダウン効果に頼るのであろう。

上院、下院の双方で共和党が過半数を占めていることを考えると、この危険な領域でオバマが示している控えめな大胆さは、どうせ実施する際には確実に失敗することを知っているからだと皮肉るものもいる。しかし、もう一点興味深いことは、オバマが強力に推し進め、討議も修正もなく急ピッチに合意を目指す「環太平洋経済連携協定(TPP)」が、平等に対してかなり大きな負の影響を有しており、これが、平等を根幹とする意欲的な議案の成立(見込みはないが)をいずれにせよ相殺することになるだろうという点である。

TPPがもたらすものは、アウトソーシングの助長、雇用や税収入の減少、労働者の交渉力の弱体化、拡大される著作権と特許による富裕層への棚ぼた的な増収である。さらに社会的費用に向ける政府の歳入も減少する。 これはNAFTA(北米自由貿易協定)で1993~1995年に経験したことの再現である。ビル・クリントンが企業の利益のために国民の支持基盤と多数派の民主党議会を完全に無視して推進したが、雇用および賃金、所得の平等にはある程度の悪影響がみられた。(Jeff Faux著 “NAFTA at 20: State of the American Worker,” 『Foreign Policy in Focus』 December 13, 2013 を参照されたい) 折に触れて、主流メディアは「経済的自由」のアジェンダを増強させるジョブキリング(仕事の抹殺)や不平等を支持した。共和党がオバマの明確な不平等撤廃についての議案を通すことはないだろうが、ビジネス・エリートの大部分が支持するこの協定については彼らの大多数がオバマと手を組むだろう。

NAFTA同様、TPPが関税の削減ではなく投資者(すなわち企業)の権利に重点を置いていること、そしてその29の条文のうち貿易を扱っているのは4条文に過ぎないことに注目すべきである。しかし自由貿易は「投資者の権利」ほど悪徳なイメージがないため、PRするにも、また主流メディアにとってもTPPは「自由貿易協定」でなくてはならない。(マーク・ワイズブロット著「”自由貿易”とは裏腹な環太平洋経済連携協定」、『ガーディアン』2013年11月19日参照のこと) オバマ政権がこの協定の成立に務めて民主的な要素を廃したことも注目に値する。「ミスター透明性」を称する大統領が、一般に知らされずまた国民的論議もないまま透明性を下げ協定を即興演奏した。この協定は人々の権利を脅かし損なうものであり、しかも企業の代表者と秘密裏に策定されたものである。公共の利益や民主主義にとって幸いなことに、かの裏切り者と評されるジュリアン・アサンジの存在があった。彼が運営するウィキリークスに秘密交渉の情報がリークされ、2013年11月13日に「知的財産権」の95ページにおよぶ条文草稿が公開された。ウィキリークスから引用してみよう。「あの3万語に及ぶ知的財産権(IP)条項には広い範囲の多国籍企業の法的効力と施行体制が制定され、TPP加盟国間の既存の法制度を修正あるいは差し替える項目がある。条文の節には特許権(商品や医薬品にまつわるもの)、著作権(情報伝達にまつわるもの)、商標権(情報や商品を正真正銘と示すもの)、産業デザインに関する規約が含まれている。」

「この章で最も長い『知的財産権の施行』条項には、新たな取締措置が詳細に記されており、それも個人の権利、市民的自由、出版者、インターネットサービスプロバイダー、インターネット上のプライバシー、さらに創造的・知的・生物学的・環境的共有物など広い範囲を対象にしている。提案された具体的措置の一つには、超国家の訴訟裁決機関がある。主権国家の裁判所はここの裁定に服し、また、人権保護措置は有しない機関である。TPPの知的財産権の条項には、これらの裁判所は内密の証拠にて審問ができるとある。また知的財産権条項は、棚上げとなっている「オンライン海賊行為防止法案(SOPA)」や「偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)」から監視および施行に関する規定の多くがコピーされている。」 ウィキリークスの編集長ジュリアン・アサンジの言葉を借りれば、『TPPが制定されるなら、その知的財産の枠組みは個人の権利や表現の自由を踏みにじり、知的創造的共有地(クリエイティブ・コモンズ)を完全に無視するものとなる。あなたが読むとき、書くとき、出版するとき、思考するとき、聴くとき、踊るとき、歌うとき、発明するとき、農産物を生産する、あるいは消費するとき、また現在病気であったり、今後病気になった場合、TPPはあなたを狙い撃ちの標的にする。』

現在のTPP交渉加盟国は米国、日本、メキシコ、カナダ、オーストラリア、マレーシア、チリ、シンガポール、ペルー、ベトナム、ニュージーランド、ブルネイである。」 (2014年5月16日に更新された第2版の知的財産権の全文は、GoogleでTPPとWikiLeaksを引けば見つかる)

約20年前のNAFTAと同様に、TPPの内容は米国エリート層の反民主的特質を端的に示している。NAFTAが制定された1993年、世論調査はアメリカ国民の大多数が法案に反対であることを一様に示していた。しかしビジネス・エリートが賛成したため、クリントンは国民のみならず民主党議員の強い反対にもかかわらず強引に法案を通過させた。主要メディアも声高にNAFTAを支持した。ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポスト両紙は社説で、NAFTAに反対運動をくり広げる労働組合をビジネスに未熟で不適格な存在と酷評し、NAFTAに好意的であったメキシコ政府までも同様の扱いであった。メキシコが自由市場による発展(あるいは後退)プログラムに「縛り付けられる」NAFTAの反民主的特質は、官僚やメディア、エコノミスト(ポール・クルーグマンなど)の鋭い指摘によって明確になった。(不正な選挙により)正当性のない政府の協力を得て導入されたプログラムはもはやメキシコの人びとによって変更することは不可能なのである。

TPPによって再び、民主党のリーダーが、「自由貿易」を呼び物にして投資家の権利に関する企業寄りのプログラムを強く推進するのを私たちは目にすることとなった。国民の反発(62パーセントが「早期一括交渉」に反対)、そして民主党が立法を遅らせようとしている中で進められているのである。この協定の膨大な部門それぞれを議会で討議することを握りつぶす早期一括交渉の法案は、議員や国民がことに異議を抱く部分が露見することを回避していると受け取られている。これはあからさまに不透明かつ非民主的である。

主流メディアはまたしても投資家に好都合なこの「自由貿易」協定に好意的である。マイラ・サットンは、ニューヨーク・タイムズ紙が社説で協定文書を是認していることを強調している。国民には読むことさえできないその文書を編集者は見たのだろうか、もしそうだとしたら、(ジュリアン・アサンジがしたように)読者に公表しないのは無責任ではないかというものだ。(「ニューヨークタイムズは国民が読むことのできない協定文書をいかにして是認できるのか?」 『電子フロンティア財団』、2013年11月7日) またしてもメディアは、貿易の可能性拡大を強調する一方で、薬剤価格への投資家の権利や影響、派生商品への規制、著作権保護の適用範囲、環境規制に異議を申し立てる権利、その他多くの問題については言葉を濁している。イヴ・スミスが述べるように、「これらの協定の本来の目的は、大手製薬会社をはじめとして米国のソフトウェアや娯楽企業のために知的財産に関する法制を強化し彼らに更なる巨万の富をもたらすこと、秘密裏の紛争仲裁パネルを多用して多国籍企業を支援することにある。このパネルは海外の投資家が法律によって見込まれる利益が得られなかったとして政府を訴えることを可能にするものだ。そのようなことが認められるわけがない。」 (「ウォーレン上院議員のTPP秘密仲裁パネル批判に対するホワイトハウスの不誠実な反応」、『Naked Capitalism』、2015年3月3日)

ワシントン・ポスト紙の論説委員は、TPPの真価は「中国の重商主義的目論見ではなく米国の自由貿易原理によって環太平洋の貿易システムを構築すること」 にあると論じている。(「中国の拡大を米国が抑止するのにTPPは有効」 2015年1月22日、同紙社説) これは、メキシコがNAFTAおよびその投資家の権利重視の「自由貿易」ルールに縛り付けられたことを想起させる。弱小国で展開する多国籍企業に投資家の権利を拡大するTPPには呼び物の項目が多くある。それらが与える影響には問題があり、そのため、透明性のある知的、道徳的環境に基づいて取り組まれる必要があるが、米国の政治経済はそれを持ち合わせていない。NAFTAについて、ニューヨーク・タイムズ紙の論説委員はその「協定の付帯決議」として加えられた環境保護を大いに評価した。これは当初この協定に批判的だった人たちをなだめるためであり、全く効力のないものであった。「新たな協定はNAFTAよりずっと強化されていることを政権は保証すべき」で、「オバマの最優先事項であるべき労働者の権利、環境保護、特許、、、といった一般規則を各国が支持している」とニューヨーク・タイムズ紙が今回力説していることは驚くにあたらない。(「今度こそグローバル貿易協定を手にしよう」 2014年4月19日、同紙社説) ここにもまた、虚勢と偽善ぶりがうかがえる。(メディアがほのめかす)秘密事項や協定の主眼は企業社会の重要部分にメディアが貢献した結果であり、NAFTA同様、TPPに組み込まれた労働者の権利や環境保護の強化は見せかけにすぎず強制力も効力もないことを論説委員は認めるべきである。

貿易協定をめぐっては、民主党の指導陣が繰り返し自らの支持基盤とその利益に関してなした約束を反故にするみっともなさが目につくが、「国家安全保障」や軍事諜報予算の配分に関しても同様である。軍事予算は膨らむいっぽうで、幅広く熱心な親軍隊の選挙区を作るために多くの州に賢しく配分されているため、民主党議員は安全保障の潮流に乗って動いてきた。世論調査は、軍産複合体の資金力にも関わらず、民主党の支持層は軍事費の縮小や市民社会への出費拡大を好んでいることを示してきた。しかしソ連が崩壊して想定された「平和の配当」 が叫ばれていたときでさえ、民主党は規模の縮小ができなかった。軍需産業はすぐに平和の配当を使い尽くす新たな脅威を造った。エリートや軍産複合体は一体化し、戦争や戦力投射部門は多額の資金力を持ちプロパガンダに精通しているので、民主党は脅威や一連の介入、戦争の流れを受容しまた推進する圧力に、あからさまでなくとも晒されている。

これは深刻な問題である。というのも民主党の国民的基盤は、予算を戦争から逼迫する市民サービスへ転用することを望んでいるからである。しかし民主党の主な資金提供者は違った考えを持っている。これが民主党が「国家安全保障」の問題について共和党ほど信頼されていない理由であり、しばしば決断力がなく混乱しているように見える理由である。

親イスラエルロビーの重圧もまた、民主党の悲惨な状態を増大させている。親イスラエルロビーは、イスラエルへの惜しみない軍事支援や米国がイスラエルのために戦う戦争を疑問視している平和主義者たちや戦争を牽制する人たちよりも、軍事強行派に信頼を寄せているのである。

親イスラエルロビーの視点からみると、[大統領候補として]リンジー・グラハムのような人のほうが、バーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンのような人たちよりも大いに望ましい。民主党による政治キャンペーンが戦争と平和ではなく----せいぜい軍事廃棄物の削減についてたまに触れるだけである----経済問題を強調していることは注目に値する。国民が深刻な格差と窮乏に直面していても、民主党は永続的な戦争システムや巨大な軍事予算にかなりうまく対応してきた。

クリントンやオバマの論証は巧みであっただけに、民主党のリーダーは米国の戦争行為へ自ら貢献することができた。ヒラリー・クリントンの発言や展望を思いやりをもって見直してみると、彼女はオバマのシリア攻撃の失敗やその他度重なる優柔不断の数々に批判的であることがうかがえる。彼女はリビアへの自らの業績が自慢であり「屈強な」外交政策を約束している。攻撃性や挑発ではなくより多くの筋力である。確かにそれは米国や世界が必要としているものなのだろう。

Z

エドワード・S・ハーマンはエコノミスト、メディア批評家、著述家。
原文:https://zcomm.org/zmagazine/trans-pacific-partnership-versus-equality-and-democracy/
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